京都弁護士のおいでやす日記
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【相続のお話】

相続放棄増加の原因は?

2024年6月2日  【弁護士のお仕事】, 【相続のお話】 

相続放棄の件数が右肩上がりだそうです。

『家庭の法と裁判2023/4月号』の「家庭裁判所事件の概況⑴」によると、相続放棄の新受件数は、平成27年189,296、平成29年205,909、令和元年225,416、令和3年251,993とのこと。

確かにこれは右肩上がりです。

いろいろな記事でもこの理由の分析がいろいろとされています。

過疎化が進み、地元を離れた子が実家の相続を放棄するケースが増えている、といった解説も目にしました。

そういったケースも少なくないようには思います。

しかし、実家の不動産はいらなくても、預貯金など金融資産も相応に残されていれば、相続放棄はしない人が多いのではないでしょうか。

結局のところ、相続放棄が増えているのは遺産が多くないケースが増えているからではないか、と密かに思っています。

所有不動産記録証明制度

2024年4月6日  【相続のお話】 

今までありそうでなかった制度が始まります。

その名も、所有不動産記録証明制度です。

これは、自身が所有する不動産の登記内容を証明した書類の交付を、法務局に請求できるという制度です。

要は、自身名義の不動産の一覧を確認できるようになるということです。

自身名義のものだけでなく、自身が相続人になっている故人名義の不動産についても利用できます。

つまり、この制度を利用すれば、相続手続をする際も故人名義の不動産を全て把握することができるようになります。


1つの土地のように見えても登記上は複数に分かれていることはよくあります。

そのため、これまでは相続手続を行う際には、必ず名寄帳を自治体から取得して故人名義の不動産の一覧を確認してきました。

もっとも、名寄帳には当該自治体内の不動産しか記載されないため、他自治体の不動産までは調べられません。

また、非課税の不動産や共有不動産などは名寄帳に記載されない(!)こともあるため、念のために地図を取得して、漏れている不動産が周辺にないか確認しています。

所有不動産記録証明制度ができれば、このような苦労からはおさらばできるかも。


と言いたいところですが、この制度にも欠点があるようです。

この制度では登記上の氏名・住所を基に、該当する不動産が検索されます。

そのため、住所が変わったのに住所変更登記をしていない時は、おそらく検索から漏れてしまいます。

残念ながら、世の中は住所変更登記がされていない不動産だらけです。

過去の住所を全てリストアップして、それぞれについて対象不動産を検索できるようになれば何とかなるかも、と思いたいところですが、令和元年までは住民票除票や戸籍の附票の除票の保管期間は5年でした(現在は150年)。

過去の住所についての証明書を入手・提出できなければ、やっぱり検索できる対象は限られてしまうかもしれません。

便利になるのは間違いないものの、不動産調査の苦労はまだまだなくなることはなさそうです。

(本記事は2024/4/6時点の情報に基づいています。)

被相続人が住所不明のときの相続放棄

2022年2月10日  【相続のお話】 

相続放棄は、被相続人(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。

普通は被相続人の最後の住民票を取得すればよいだけの話で、最後の住所地がどこなのかで紛糾することはありません。

しかし、何十年も前に死去した被相続人について相続放棄を行うこともあります。

被相続人名義の建物が他人の土地上に長年残り続けており、土地所有者から連絡があるまで相続人はそれを知らなかったようなケースが一例です。

そうした時に相続人が相続放棄を行おうと思っても、被相続人の最後の住所地が分からないこともあります。

住民票や戸籍の附票の保存期間は、今でこそ150年ですが令和元年まではたった5年でした。

あっという間に廃棄されてしまうので、何十年も前に死去した人の住民票も戸籍の附票も、まず残っていません。

そうすると公的書類で最後の住所地を確認できないことになり、どの家庭裁判所で相続放棄すればよいのか分からず路頭に迷いそうになります。


しかし、そういうときは確認できる限りの情報から最後の住所地を判断し、その判断を記載した上申書を家庭裁判所に提出すれば、受け付けてもらえます。

被相続人名義の建物の所在地や本籍地といった情報から、最後の住所地は推測できるでしょう。

ちなみに、法務局で保管されている死亡届の記載事項証明書を取得することによって、そこに記載された最後の住所地を確認するという方法もあります。

これは最後の本籍地の法務局で保管されるそうなので、最後の住所地が分からなくても取得できます。

ただし、記載事項証明書にも保存期間があるようなので、活用には限界がありそうです。

土地所有権放棄制度

2021年5月4日  【相続のお話】 

『家庭の法と裁判』4月号を(ようやく)読みました。

法制審議会による「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱」も解説されています。

予定されている法改正(2023年頃?)では、所有者不明土地に関する様々なルールが変わることになります。

特に、(1)相続登記申請の義務化や(2)土地所有権放棄制度の新設は、世間をにぎわすこと間違いなしです。


(1)を簡単に言えば、相続人が不動産の相続後3年以内に相続登記申請をしなければ、10万円以下の過料を科されることになるという話です。

相続登記がされない原因は、①登記手続が面倒、②不動産に価値がなく名義を変えるメリットがない、といったところでした。

①の登記手続が面倒な点については、近い将来戸籍謄本を全国どの役所からも取得できるようになれば、多少は解消されるのかもしれません。

もっとも、登記を受け付ける法務局は、司法書士を通さない登記申請に対して不親切です(ひどい対応をされた経験を根に持っています。)。

登記をしろと国民に求めるのであれば、誰でも簡単に登記できるシステムを国が整え、法的根拠のないお作法などにこだわらない姿勢を法務局が持つのが先だと私は思っています。


②の不動産に価値がなく名義を変えるメリットがない場合については、(2)土地所有権放棄制度を活用してくれということなのでしょう。

ただ、土地所有権放棄制度(土地所有権の国庫帰属)の利用条件はなかなか厳しいです。

建物が建っていれば不可。

担保権や用益権が設定されていれば不可。

境界未確定、隣地との紛争があれば不可。

土壌汚染や管理を阻害する工作物・車両・樹木・地下埋設物などがあれば不可。

など色々と条件があります。

つまり、土地をキレイサッパリした状態にしなければなりません。

全て満たし、10年分の土地管理費用を納付すれば、土地の国庫帰属が認められます。


相続財産管理人として不動産の国庫帰属手続を行ったことがありますが、国(財務局)からはとても細かい指摘があり、そう簡単には国庫帰属を受けてくれませんでした。

今回の(2)土地所有権放棄制度も、利用できる土地は限られそうですし、手続も一苦労(土地によっては五苦労くらい)になりそうです。

もっとも、これら法改正の施行はまだ先ですが、特に(2)土地所有権放棄制度についてはご相談者から質問されることが多くあり、世間の関心の高さがうかがえます。

施行されれば制度の利用希望が殺到しそうです。

そして、その大半は条件を満たさなかったり満たすのに時間がかかる土地でしょうから、当面は利用したくてもアポイントメントすら取れないコロナワクチン接種のような状態になると予想しています。

3か月過ぎても相続放棄できるかも

2020年12月24日  【相続のお話】 

遅ればせながら『家庭の法と裁判』2020年12月号を読了です。

今月号のメインは私が扱っていない少年事件でしたが、家事裁判例に覚えておきたい事案が掲載されていました。

被相続人の法定相続人である抗告人らが相続放棄の各申述をした事案において、抗告人らの各申述の遅れは、相続放棄手続が既に完了したとの誤解や被相続人の財産についての情報不足に起因しており、抗告人らの年齢や被相続人との従前の関係からして、やむを得ない面があったというべきであるから、本件における民法915条1項所定の熟慮期間は、抗告人らが、相続放棄手続や被相続人の財産に関する具体的説明を受けた時期から進行するとして、熟慮期間を経過しているとして本件各申述を却下した原審を取り消し、各申述をいずれも受理する決定をした事例

東京高裁令和元年11月25日決定

裁判所は文を途中で切らず、一文で書ききるのがお好きです。

まるで止まると死ぬマグロのようだ、なんて思っているわけではもちろんありませんが、なんとも読みづらいです。


相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内にしなければなりません(民法915条1項)。

ただ、3か月超の月日が経ってから故人の負債の存在を知ることもあります。

そのような場合でも、相続人が3か月以内に相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、そのように信じる相当な理由があるときには、相続人が相続財産の存在を認識した時から3か月以内であれば相続放棄は受理されます(最判昭和59年4月27日)。

ところが、上記の事例では、相続人らが相続財産の存在を認識してからも3か月が経過してしまっていました。

最判昭和59年4月27日によっても、相続放棄は受理されないはずのケースでした。


しかしながら、東京高裁決定は、相続人らが被相続人と疎遠であったことや、相続人らが高齢で相続放棄手続を誤解していたことを理由に、相続放棄申述が遅れたのは「やむを得ない面があった」としました。

そして、相続人らが、相続放棄は各自が手続を行う必要があることや負債の詳細について説明を受けた時から3か月以内であれば、相続放棄は受理すべきと判断しました。

結果、相続放棄は受理されました。

これまでから家裁は相続放棄をかなり広く受理してくれましたが、この裁判例によればさらにもうちょっと間口を広げられるかもしれません。


相続放棄すべきなのにしないまま3か月の熟慮期間を経過してしまうケースというと、たいてい上記の事例と同じく被相続人と疎遠であったり、相続人が高齢で相続放棄手続を理解していないケースだと思います。

上記の事例では、相続人らは一応熟慮期間内に相続放棄しようと行動していた(が正しい手続を取れていなかった)ようです。

そのため、ただ放置していただけでは原則どおり受理されないでしょうが、「やむを得ない面」があって熟慮期間に遅れたと言えそうなケースであれば、諦めずに相続放棄にトライする価値がありそうです。


なお、家裁はただ受理するだけで、相続放棄の有効性は基本的には判断しません。

そのため、上記裁判例のように相続放棄がギリギリ受理されたとしても、後で債権者等から相続放棄の有効性を争われる可能性は残ります。

結局のところ、相続放棄するのであれば、期限内に確実に手続を終えられるように早めに弁護士にご依頼いただくべき、ということをお伝えしたいのでした。

弁護士と税法

2020年9月29日  【相続のお話】, 【税務・税金のお話】 

『税理士のための相続法と相続税法 法務と税務の視点』(税理士小池正明著)を読了しました。

相続法のあらゆる規定・要点について、法務の視点と税務の視点から詳細な解説がされています。

「税理士のための」とありますが、弁護士にとっても勉強になり、使い勝手もよい良書です。

相続という分野を専門家として扱うのであれば、法務と税務双方の知識が必要になります。

例えば、2名の相続人が同額の遺産を相続したとしても、被相続人(故人)との関係によっては相続税額の大幅な軽減がされたり(配偶者控除)、逆に加算されることもあります(兄弟姉妹などの2割加算)。

はたまた、不動産について小規模宅地等の特例を利用できれば、その不動産を相続した相続人の相続税額は他方よりも少なくなるでしょう。

遺産を平等に分けたつもりだったのに、後で相続税額を見て「話が違うじゃないか!」ということにならないように、弁護士も税務を意識しつつ相続法を使うことが必須というわけです。

相続・遺産分割を弁護士に依頼する方は、その弁護士が最低限の税務の知識を有するのかをご確認されるべきでしょう。

 

配偶者居住権

2020年9月26日  【相続のお話】, 【税務・税金のお話】 

今年4月1日から施行された改正相続法の目玉の1つが「配偶者居住権」です。

被相続人(故人)の配偶者が被相続人の死後も住み慣れた自宅に住み続けられるように、この権利が新設されました。

自宅が被相続人名義の場合、被相続人の死去に伴い自宅も遺産分割の対象となります。このような場合、配偶者と他の相続人(子など)との関係が悪いときには、配偶者が自宅を確保するのと引き換えに預金等を相続できなくなったり、自宅の確保をあきらめざるを得なくなるケースがありました。

しかし、今回の改正で、配偶者が自宅の所有権を他の相続人に譲りつつも、自宅に居住し続けることができる権利(配偶者居住権)が新設されました(配偶者居住権には長期と短期がありますが、今回は長期配偶者居住権についてお話します。)。

配偶者が配偶者居住権を取得すると、配偶者は自宅の所有権を取得するわけではなく、あくまでも居住権だけを取得する形になります。そのため、その分だけ配偶者の相続分(相続できる遺産額)に余剰ができ、配偶者は預金等を取得することもできるようになります。

つまり、配偶者は自宅に居住し続けつつ、今後の生活費もしっかりと確保できるようになるわけです。

しかも、この配偶者居住権は、終身(!)にわたり無償(!)で建物を使用し続けられるというとても強い権利になっています。


さらに言えば、配偶者居住権は節税にも利用できます。

例えば、自宅を所有していた父が死去して、母が自宅の配偶者居住権を取得し、子が自宅の所有権を取得したケースを考えましょう。

配偶者居住権自体にも相応の財産的価値があるため、父が死去した時点で子が相続する財産の価額は、自宅全体から配偶者居住権の価額を差し引いた金額にとどまります。それに対し、母は配偶者居住権を相続しますが、相続税の配偶者控除や小規模宅地等の特例を利用すれば相続税額を軽減できます。

そして、その後母が死去すれば配偶者居住権は消滅しますが、自宅の所有権は既に子に移っています。そのため、母の相続に当たっては自宅についての課税関係は一切生じないことになります。

つまり、①配偶者居住権を利用せずに父から子が自宅所有権全てを相続したケースや、②父から母が自宅を相続した後、母から子が自宅を相続したケースと比べると、母が配偶者居住権を取得しつつ子が自宅の所有権を取得した方が相続税の総額は少なくなるというわけです。

とても有用な制度ですので、相続対策・相続税対策に積極的に活用したいところです。


ただし、配偶者居住権は遺言によって配偶者に取得させるのがベターですが、「相続させる遺言」ではなく「遺贈」によらなければなりません(民法1028条1項2号参照)。

また、相続税については個々のケースによって結論も変わりますので、配偶者居住権の活用前には具体的なシミュレーションが必須です。

配偶者居住権を利用したい方は、相続や税務に詳しい弁護士・税理士に必ずご相談ください。

(写真は雨上がりの京都の夕焼けです。)

自己紹介

  • 弁護士・税理士 河本晃輔
  • 京都弁護士会所属
  • 洛彩総合法律事務所(京都市右京区西院平町7クラエンタービル2階)
  • 京都で生まれ育つ。14年にわたる東京・北海道暮らしを経て京都に復帰。現在京都人のリハビリ中。
  • 趣味:旅行、アジア料理、パクチー、サイクリング、野球観戦、旅館探しなど
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