京都弁護士のおいでやす日記
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【税務・税金のお話】

国税不服審査請求の手続と実務

2021年1月18日  【税務・税金のお話】 

「国税不服審査請求の手続と実務」という研修会にZOOM参加しました。

主催は近畿弁護士連合会です。

大阪開催でも自宅からライブ参加できるなんて本当に便利です、オンライン研修。


内容は、その名のとおり国税不服審査請求の手続についてです。

国税不服審判所が作った「手続の流れをドラマ形式で再現したDVD」も途中で流されました。

小学生の頃、NHK教育テレビで見させられた(見させられたと言うべきではない)道徳の映像教材を思い出しました。

国税不服審査請求への馴染みが薄い弁護士向けに、裁判手続との比較という視点も挟みながら説明がされました(手続の位置づけ、立証責任、主張責任など)。

資料も、お役所作成とは思えないくらいとてもよくまとまっていて(一言多い)、大変分かりやすかったです。

受講した甲斐ある研修でした。

落とし穴の話

2021年1月5日  【税務・税金のお話】, 【離婚と家庭のお話】 

『実務家が陥りやすい離婚事件の落とし穴』(東京弁護士会家族法部)を読了しました。

同じシリーズの『実務家が陥りやすい相続・遺言の落とし穴』と比べると、比較的浅めの落とし穴が多かったように思います。

しかし、雪解け後の北海道の道路のように、踏めばタイヤがバーストするくらいの穴も結構ありました。


北海道の道路では、冬の初めに積もった雪が一旦解け、アスファルトに水が浸透します。

その状態で水が凍ると水分が膨張するため、周りのアスファルトが圧縮されます。

そして、そのまま春になって氷が解け水分が蒸発すると、アスファルト内に空洞だけが残り、そこに車の重みなどが加わると簡単に崩壊して道が穴だらけになってしまうのです。

実物を見ないとなかなかイメージしづらいのですが、大モグラが耕したのかというくらい、雪解け後は本当に道が大穴だらけになっています。

(3年前の雪解け期に留萌に赴任した時、ボロボロの道を見て「ここまでこの市の財政は厳しいのか…」と思った、という笑えない話は伏せておきます。)


穴の話になってしまいました。

復習のため、今回の『(略)落とし穴』で意識しておきたい知識を1つ。

離婚時に財産分与によって不動産が譲渡されることがあります。

この際、原則として贈与税は課されないのですが、例外的にその不動産の価値が清算的財産分与としては過大であったときは、過大である部分について贈与税・不動産取得税が課されることがあります。

この点も、分かっていても見落としがちな落とし穴です。


しかし、それだけでなく不動産の価格が取得時よりも増加していたときには、譲渡側に対して譲渡所得税が課されることがあります(財産分与として過大か否かにかかわらず)。

この点に関しては、居住用財産の3000万円の特別控除を利用できることがあるほか、居住用財産の所有期間がその年の1月1日時点で5年を超えていれば長期譲渡所得税の適用を、10年を超えていればさらに税率が低い10年超所有軽減税率の適用を受けられることがあります。

離婚する時に「自宅に住み始めてから何年経ったか」を考えることはなかなかありませんが、譲渡所得税が課税される場面では5年・10年という区切りを意識しなければならないというわけです。

ちなみに、協議離婚を行ったが後に想定外の譲渡所得税が課税されたケースで、財産分与の意思表示について錯誤無効が認められた裁判例(東京高判平成3年3月14日判時1387・6)もあるそうですが、あまり気休めにはなりません。

穴を見落としても大モグラのせいにはできませんので、税務にはつくづく気を付けようと思う次第です。

法人税法34条2項

2020年11月22日  【税務・税金のお話】 

今日はランチの話ではなく真面目な話です。

税法の裁判例を読んでいると「租税法律主義」というワードを強く意識することになります。

租税の賦課徴収は国民の財産権を侵害するものなので、課税要件・手続は明確に法定されなければならないという原則です。

法学生時代に税法を学んでいなくとも、憲法を学べば必ず登場するのが租税法律主義ですが、裁判例でも基本的には租税法律主義に基づいた判断がされているように見受けられます。


ところが、そんな中で突然、課税要件明確主義もびっくりな不確定概念が条文に現れ、こちらもびっくりすることがあります。

例えば、以下の条文です。

法人税法34条2項

内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

この条文に関して、『税理士界』第1393号(2020年10月15日)の『相当性の意義~法人税法34条2項を中心として~』(河原大輔税理士)が大変分かりやすく、勉強になりました。


そもそも法人税法34条2項は、役員報酬の恣意的な支給による租税回避行為を封じることを目的とした規定です。

しかし、「不相当に高額な」という抽象的な文言を見ると、弁護士ならムズムズして何だか背中がかゆくなってくるところです。

もちろん、この規定を受けた法人税法施行令70条は、「不相当に高額」のもうちょっと具体的な基準を定めています。

法人税法施行令70条は、当該役員の職務等と他の類似法人との比較基準(同条1号イ)及び定款等による限度額との比較基準(同条1号ロ)を定め、役員退職給与についてはその役員の職務等と他の類似法人との比較基準を定めています(同条2号)。

つまり、法人税法施行令70条によると、役員報酬が「不相当に高額」かどうかは類似の事業・規模の法人との比較によって決まるとされているのです。


しかし、役員報酬は契約自由の原則の下、本来は法人と役員との間で自由に決められるべきものです。

それにもかかわらず、法人税法施行令70条の基準によると、類似法人と横並びの金額にしなければ国家が役員報酬の損金性を否認する、つまり役員報酬を類似法人と横並びの金額にすることを国家が事実上強制しているわけであり、これ自体疑問があるところです。

そもそも、法人税法34条2項の趣旨は、役員報酬の恣意的な支給による租税回避行為を封じることにありました。

そうであれば、役員報酬の金額を役員が恣意的に操作できないように法人の内部統制が整備・運用されていれば、その金額を「不相当に高額」と評価すべきではないのではないでしょうか。

つまり、このような考慮をすることなく類似業種比較基準を持ち出してきた法人税法施行令70条は、法人税法34条2項の委任の範囲を超えており、租税法律主義に反し違憲と考えられるのです。


記事を私なりにまとめると以上のようになります。

なるほどと納得させられました。

租税法律主義の中から時折ヌッと顔を出す不確定概念は、弁護士にとって税法に関わる糸口にもなるように思います。

事業承継対策

2020年11月18日  【税務・税金のお話】 

『税務のわかる弁護士が教える税賠トラブルを防ぐ事業承継対策』(弁護士・税理士谷原誠編著)を読了しました。

事業承継の会社法的手法、信託の活用、経営承継円滑化法の活用、経営者保証ガイドラインの活用、遺留分対策など、事業承継を進める上で法的に押さえておくべきポイントが整理されています。

半面、税務面や、タイトルにある税賠トラブル予防策などの記載はボリュームが少ないですが、事業承継の方法の選択肢を当たるにはちょうど良い本かと思います。


中小企業の事業承継は、税理士が中心的に関与することが多いものです。

しかし、会社法的手法や遺言・遺留分対策は弁護士の守備範囲ですし、それ以外の知識についても引出しとして頭に入れておくことが大切だと考えています。

税理士会の研修

2020年10月20日  【税務・税金のお話】 

洛彩総合法律事務所代表の河本晃輔は、弁護士登録だけでなく税理士登録も行っています。

弁護士が依頼を受ける案件はお金や資産が関わるものが大半ですが、お金や資産が動けば税金がつきものです。

弁護士として案件に携わるに当たり税金の知識は不可欠ですので、「弁護士が知るべき税務」について研鑽を欠かさないようにしています。

この点、税理士会は研修制度が非常に充実しているなと感じます。

税理士には年間36時間の研修受講義務が課されていますが、オンラインでは多種多様な研修が提供されており、勉強好きであれば36時間もさほど苦にならないくらいです。

継続こそ力になりますので、これからも弁護士業務の傍ら勉強を続けていきます。

(写真は先週食べた麺付きトムヤムクンです。辛いトムヤムクンは完食に時間がかかってしまうため、すぐに伸びてしまう麺との相性は良くないかもしれません。)

弁護士と税法

2020年9月29日  【相続のお話】, 【税務・税金のお話】 

『税理士のための相続法と相続税法 法務と税務の視点』(税理士小池正明著)を読了しました。

相続法のあらゆる規定・要点について、法務の視点と税務の視点から詳細な解説がされています。

「税理士のための」とありますが、弁護士にとっても勉強になり、使い勝手もよい良書です。

相続という分野を専門家として扱うのであれば、法務と税務双方の知識が必要になります。

例えば、2名の相続人が同額の遺産を相続したとしても、被相続人(故人)との関係によっては相続税額の大幅な軽減がされたり(配偶者控除)、逆に加算されることもあります(兄弟姉妹などの2割加算)。

はたまた、不動産について小規模宅地等の特例を利用できれば、その不動産を相続した相続人の相続税額は他方よりも少なくなるでしょう。

遺産を平等に分けたつもりだったのに、後で相続税額を見て「話が違うじゃないか!」ということにならないように、弁護士も税務を意識しつつ相続法を使うことが必須というわけです。

相続・遺産分割を弁護士に依頼する方は、その弁護士が最低限の税務の知識を有するのかをご確認されるべきでしょう。

 

配偶者居住権

2020年9月26日  【相続のお話】, 【税務・税金のお話】 

今年4月1日から施行された改正相続法の目玉の1つが「配偶者居住権」です。

被相続人(故人)の配偶者が被相続人の死後も住み慣れた自宅に住み続けられるように、この権利が新設されました。

自宅が被相続人名義の場合、被相続人の死去に伴い自宅も遺産分割の対象となります。このような場合、配偶者と他の相続人(子など)との関係が悪いときには、配偶者が自宅を確保するのと引き換えに預金等を相続できなくなったり、自宅の確保をあきらめざるを得なくなるケースがありました。

しかし、今回の改正で、配偶者が自宅の所有権を他の相続人に譲りつつも、自宅に居住し続けることができる権利(配偶者居住権)が新設されました(配偶者居住権には長期と短期がありますが、今回は長期配偶者居住権についてお話します。)。

配偶者が配偶者居住権を取得すると、配偶者は自宅の所有権を取得するわけではなく、あくまでも居住権だけを取得する形になります。そのため、その分だけ配偶者の相続分(相続できる遺産額)に余剰ができ、配偶者は預金等を取得することもできるようになります。

つまり、配偶者は自宅に居住し続けつつ、今後の生活費もしっかりと確保できるようになるわけです。

しかも、この配偶者居住権は、終身(!)にわたり無償(!)で建物を使用し続けられるというとても強い権利になっています。


さらに言えば、配偶者居住権は節税にも利用できます。

例えば、自宅を所有していた父が死去して、母が自宅の配偶者居住権を取得し、子が自宅の所有権を取得したケースを考えましょう。

配偶者居住権自体にも相応の財産的価値があるため、父が死去した時点で子が相続する財産の価額は、自宅全体から配偶者居住権の価額を差し引いた金額にとどまります。それに対し、母は配偶者居住権を相続しますが、相続税の配偶者控除や小規模宅地等の特例を利用すれば相続税額を軽減できます。

そして、その後母が死去すれば配偶者居住権は消滅しますが、自宅の所有権は既に子に移っています。そのため、母の相続に当たっては自宅についての課税関係は一切生じないことになります。

つまり、①配偶者居住権を利用せずに父から子が自宅所有権全てを相続したケースや、②父から母が自宅を相続した後、母から子が自宅を相続したケースと比べると、母が配偶者居住権を取得しつつ子が自宅の所有権を取得した方が相続税の総額は少なくなるというわけです。

とても有用な制度ですので、相続対策・相続税対策に積極的に活用したいところです。


ただし、配偶者居住権は遺言によって配偶者に取得させるのがベターですが、「相続させる遺言」ではなく「遺贈」によらなければなりません(民法1028条1項2号参照)。

また、相続税については個々のケースによって結論も変わりますので、配偶者居住権の活用前には具体的なシミュレーションが必須です。

配偶者居住権を利用したい方は、相続や税務に詳しい弁護士・税理士に必ずご相談ください。

(写真は雨上がりの京都の夕焼けです。)

自己紹介

  • 弁護士・税理士 河本晃輔
  • 京都弁護士会所属
  • 洛彩総合法律事務所(京都市右京区西院平町7クラエンタービル2階)
  • 京都で生まれ育つ。14年にわたる東京・北海道暮らしを経て京都に復帰。現在京都人のリハビリ中。
  • 趣味:旅行、アジア料理、パクチー、サイクリング、野球観戦、旅館探しなど
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