今日はランチの話ではなく真面目な話です。
税法の裁判例を読んでいると「租税法律主義」というワードを強く意識することになります。
租税の賦課徴収は国民の財産権を侵害するものなので、課税要件・手続は明確に法定されなければならないという原則です。
法学生時代に税法を学んでいなくとも、憲法を学べば必ず登場するのが租税法律主義ですが、裁判例でも基本的には租税法律主義に基づいた判断がされているように見受けられます。
ところが、そんな中で突然、課税要件明確主義もびっくりな不確定概念が条文に現れ、こちらもびっくりすることがあります。
例えば、以下の条文です。
法人税法34条2項
内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
この条文に関して、『税理士界』第1393号(2020年10月15日)の『相当性の意義~法人税法34条2項を中心として~』(河原大輔税理士)が大変分かりやすく、勉強になりました。
そもそも法人税法34条2項は、役員報酬の恣意的な支給による租税回避行為を封じることを目的とした規定です。
しかし、「不相当に高額な」という抽象的な文言を見ると、弁護士ならムズムズして何だか背中がかゆくなってくるところです。
もちろん、この規定を受けた法人税法施行令70条は、「不相当に高額」のもうちょっと具体的な基準を定めています。
法人税法施行令70条は、当該役員の職務等と他の類似法人との比較基準(同条1号イ)及び定款等による限度額との比較基準(同条1号ロ)を定め、役員退職給与についてはその役員の職務等と他の類似法人との比較基準を定めています(同条2号)。
つまり、法人税法施行令70条によると、役員報酬が「不相当に高額」かどうかは類似の事業・規模の法人との比較によって決まるとされているのです。
しかし、役員報酬は契約自由の原則の下、本来は法人と役員との間で自由に決められるべきものです。
それにもかかわらず、法人税法施行令70条の基準によると、類似法人と横並びの金額にしなければ国家が役員報酬の損金性を否認する、つまり役員報酬を類似法人と横並びの金額にすることを国家が事実上強制しているわけであり、これ自体疑問があるところです。
そもそも、法人税法34条2項の趣旨は、役員報酬の恣意的な支給による租税回避行為を封じることにありました。
そうであれば、役員報酬の金額を役員が恣意的に操作できないように法人の内部統制が整備・運用されていれば、その金額を「不相当に高額」と評価すべきではないのではないでしょうか。
つまり、このような考慮をすることなく類似業種比較基準を持ち出してきた法人税法施行令70条は、法人税法34条2項の委任の範囲を超えており、租税法律主義に反し違憲と考えられるのです。
記事を私なりにまとめると以上のようになります。
なるほどと納得させられました。
租税法律主義の中から時折ヌッと顔を出す不確定概念は、弁護士にとって税法に関わる糸口にもなるように思います。