『実務家が陥りやすい相続・遺言の落とし穴』(遺言・相続実務問題研究会)を読了しました。
この手の「落とし穴系」の書籍はよくありますが、こちらはなかなか勉強になりました。
入門用ではなく、相続案件を扱う弁護士でも見落としがちな盲点が揃えられています。
例えば。。
遺産分割では、相続人の1名が一旦不動産を取得し、後に不動産を売却して代金の中から他相続人に代償金を支払うという方法を取ることがあります。
この場合、その不動産の価値が故人の取得時から増加していれば、売却後に譲渡所得税が賦課されることになります。
このとき譲渡所得税が賦課されるのは、あくまでもその不動産を一旦取得した相続人ということになります。
それでは、その相続人は、譲渡所得税の計算に当たり代償金を「取得費」に算入し、譲渡所得からその金額を控除することができるのか?
答えは、「できない」です。
代償分割をしたときは代償金を支払って他相続人の持分を有償取得したようにも思えるのですが、相続発生後の遺産共有状態は暫定的なものにすぎず、遺産分割によって遺産分割の効果は相続開始時に遡ることになります。
そのため、結論としては不動産を取得した相続人が相続前から引き続き不動産を所有していたものと扱われ、代償金を不動産の取得費に算入することはできないことになります。
理論はさておき、つまるところ、相続人を代表して不動産売却という一大仕事を引き受けた相続人が、不動産を一旦取得したがために譲渡所得税を単独で負担しなければならなくなるわけです。
これでは「こんなことは聞いていない」と後で問題になること間違いなしです。
そのため、譲渡所得税が発生しうるケースでは、遺産分割時に譲渡所得税額もあらかじめ精算して分割方法を決めておくか、代償分割ではなく平等に譲渡所得税が賦課される換価分割を選ぶべきということになるのでしょう。
普通に起こりうるケースですが、意識していなければ素通りしかねない問題点です。
こういう調子の内容なので、この本はときどき読み直そうと思います。