
遅ればせながら『家庭の法と裁判』2020年12月号を読了です。
今月号のメインは私が扱っていない少年事件でしたが、家事裁判例に覚えておきたい事案が掲載されていました。
被相続人の法定相続人である抗告人らが相続放棄の各申述をした事案において、抗告人らの各申述の遅れは、相続放棄手続が既に完了したとの誤解や被相続人の財産についての情報不足に起因しており、抗告人らの年齢や被相続人との従前の関係からして、やむを得ない面があったというべきであるから、本件における民法915条1項所定の熟慮期間は、抗告人らが、相続放棄手続や被相続人の財産に関する具体的説明を受けた時期から進行するとして、熟慮期間を経過しているとして本件各申述を却下した原審を取り消し、各申述をいずれも受理する決定をした事例
東京高裁令和元年11月25日決定
裁判所は文を途中で切らず、一文で書ききるのがお好きです。
まるで止まると死ぬマグロのようだ、なんて思っているわけではもちろんありませんが、なんとも読みづらいです。
相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知ってから3か月以内にしなければなりません(民法915条1項)。
ただ、3か月超の月日が経ってから故人の負債の存在を知ることもあります。
そのような場合でも、相続人が3か月以内に相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、そのように信じる相当な理由があるときには、相続人が相続財産の存在を認識した時から3か月以内であれば相続放棄は受理されます(最判昭和59年4月27日)。
ところが、上記の事例では、相続人らが相続財産の存在を認識してからも3か月が経過してしまっていました。
最判昭和59年4月27日によっても、相続放棄は受理されないはずのケースでした。
しかしながら、東京高裁決定は、相続人らが被相続人と疎遠であったことや、相続人らが高齢で相続放棄手続を誤解していたことを理由に、相続放棄申述が遅れたのは「やむを得ない面があった」としました。
そして、相続人らが、相続放棄は各自が手続を行う必要があることや負債の詳細について説明を受けた時から3か月以内であれば、相続放棄は受理すべきと判断しました。
結果、相続放棄は受理されました。
これまでから家裁は相続放棄をかなり広く受理してくれましたが、この裁判例によればさらにもうちょっと間口を広げられるかもしれません。
相続放棄すべきなのにしないまま3か月の熟慮期間を経過してしまうケースというと、たいてい上記の事例と同じく被相続人と疎遠であったり、相続人が高齢で相続放棄手続を理解していないケースだと思います。
上記の事例では、相続人らは一応熟慮期間内に相続放棄しようと行動していた(が正しい手続を取れていなかった)ようです。
そのため、ただ放置していただけでは原則どおり受理されないでしょうが、「やむを得ない面」があって熟慮期間に遅れたと言えそうなケースであれば、諦めずに相続放棄にトライする価値がありそうです。
なお、家裁はただ受理するだけで、相続放棄の有効性は基本的には判断しません。
そのため、上記裁判例のように相続放棄がギリギリ受理されたとしても、後で債権者等から相続放棄の有効性を争われる可能性は残ります。
結局のところ、相続放棄するのであれば、期限内に確実に手続を終えられるように早めに弁護士にご依頼いただくべき、ということをお伝えしたいのでした。